指紋からなにがわかるか 冤罪はなぜ起きるのか
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指紋から何がわかるか

 ほとんどの方が指紋と言う言葉は、目にしたり聞いたりしていると思います。刑事事件の犯人であったり,事故被害者の身元確認であったりと新聞紙上をにぎわせたこともありました。指紋は同じものが二つとないことは,それこそ自然の摂理であります。
 この指紋は,よく観察すると人の織り成す様々なことを明らかにしてくれます。

 項目を挙げると次のとおりです。

 ① 犯人がわかる。
 ② 言葉の信頼度がわかる。
 ③ 身元がわかる。
 ④ 持主がわかる。
 ⑤ 人の行動がわかる。
 ⑥ 人の意思がわかる。
 ⑦ 別人の証明ができる。
 ⑧ 身体的特徴や利き手がわかる。
 ⑨ 人を制御することができる。

 民間指紋鑑定は、警察以外の期間で実施しているところがほとんどなく、警察の独壇場でした。 民間では、これまで警察OBの方が個人で稼動していたのがほとんどでしたが、 何しろ数が少ないのと定年退職後の活動ではだんだん年齢が経つにしたがってより少なくなっているのが現状だと思います。
 しかし、皆さん、指紋からは①から⑨まで、それこそ沢山の情報がわかるのです。 これまで警察以外で鑑定できるところがなかったために、民間での指紋活用が埋もれてしまっていたというのが実感です。 今では、簡単にパソコン上で画像処理ができるようになって指紋の鮮明化、牽いては正確化は格段に向上しました。 かつて、苦労していた警察時代を思い出すと隔世の感があります。

犯人がわかる。

 一番代表的なのが、犯人の割り出しです。前歴がある人は,すべて指紋が保管されています。 これをもとにして、現場から採取した指紋を照合して犯人を探すことができます。 今では,この作業をコンピュータが数時間で600万人以上もの膨大な資料から似ている指紋をピックアップしてくれます。 これを「指紋自動識別システム」といっています。NECと日本の警察庁が共同して開発したこのシステムは,今では,アメリカをはじめ全世界で活躍されている優れものなのです。 最終的には、鑑定官が目で見て決定を下します。
 では、現場から犯人の指紋が採取されているが、保管資料がないときはどうするのでしょうか。 この場合は、容疑者として浮上してきた人の指紋を入手して照合するのです。 これを「入手指紋」と言っています。この形には、容疑者が触ったコップとか、紙に書いた用紙などから検出した指紋と照合する秘匿採取の方法と、 直接本人の承諾を得て指紋を提供してもらう方法があります。

ここで、問題になるのが「秘匿採取」です。鮮明な指紋を確保するのに物理的な制限を受けるのは仕方がないところです。 しかし、法的には、刑事と民事では異なります。刑事事件として立件するには、正当な方法で取得しないと証拠として使えないのです。 これを違法収集証拠の証拠能力といって否定されてしまうおそれがあるのです。一方、民事では、著しい違法でなければ、原則として証拠能力が否定されません。

言葉の信頼度がわかる。

 人の供述と言うものは,時により重要な働きをします。 人は本当のことを言っているのかと思えば、そうではない事は多々あります。 原則としては,まず信じることでしょうが、その内容によって、事実判断の方向を左右する立場の方がそのまま信頼できるかというとまた別個の問題です。
 例えば,暴力団が絡んだ事件では,関係者も暴力団ですから、常に警察を敵対視していたり、仲間内のしがらみで彼らの供述が全部本当か、どうかは、疑わしい場合があります。 そんな中で、現場周辺から採取した指紋の位置と形態が、供述内容に整合すれば、その者の供述は信頼度があると言えるのです。 何処にいた,何をしていたと言うのがわかれば、そこから指紋を採取し、裏付け対照して状況の整合性から真偽を確認できるのです。 冤罪防止や効率の良い捜査には,欠かせない作業なのです。人は嘘をつく、間違いを犯す、寝返る、ということを忘れないことです。

身元がわかる。

 人は、時には偽名を使うときがあります。警察では,検挙された全犯人の指紋と保管資料をコンピュータで自動的に対照してその身元を確認しています。 また、事件事故の死亡者や変死体が発見された時は,身元の判明に関わらず必ず指紋を採取しています。 本人の身元確認と必要により行動確認捜査の裏付けとして使用するからである。 変死体の場合は、火葬にしてしまっては後の祭ですから、警察は公安委員会規則で採取が義務付けられているのです。

 例えば、飛行機の墜落事故、列車事故、ホテル火災、自然災害など不特定多数が絡む事件事故の身元確認には欠かせないものです。 大規模事件・災害対策本部では,現場採証班の中に必ず指紋採取班と鑑定班を配置しています。 過去の事例から見ると、衣服とか外形で判断していますと、中には遺体の取り違いというのが往々にしてあるのです。 遺体損傷がひどい場合は仕方がないといいますが、やはり許されるべきことではないことです。
 さらに、それらしき該当者が出てくれば、本人の自宅などにある生前手にしていた物件から指紋を採取して照合するのです。 これを「※在宅指紋」と言っています。今では,DNA鑑定も精度が上がって個人識別には欠かせない存在になってきていますが、 特に、海外旅行するときは、自宅に家族全員の指紋を保存していれば有効です。 また、多額の保険金をかけても身元がわからなければ、保険金はもらえないことだってあるのです。

※在宅指紋・・・・本人の生前の所有物などから取った指紋のこと

持主がわかる。

 名前が書いてないもの、これといった特徴もないものがあります。 これでは誰のものかわかりません。しかし、持主であれば、そこに指紋がついているはずです。 窃盗された物から検出した指紋が、被害者や申出人の指紋に合致すればその人の物であったことになるのです。
 例えば,紙幣は天下の周りものだから持っている人が正当な所有者である推定を受けてしまいます。 だから、窃盗事件が発生して、容疑者が被害現金と同額を持っていても、本人が知らないと言えば証拠にはなりません。 ところが、一つ手があります。それは、所持人から現金の任意提出を受けて指紋検出をし、被害者やその現金を触った身近な関係者の指紋と照合するのです。 被害関係者の指紋が出れば,その現金は窃取したことの証明になるのです。これを「逆対照」と言っています。 犯行後まもない現場付近での職務質問時にけっこう効果を発揮することもあるのです。現金に限ることなく、指紋検出ができる物なら何にでも使える方法です。

人の行動がわかる。

 指紋は,ご存知のように、親指を別にして4本が長さと太さを違えて並んでいます。 現場指紋もこの特徴にしたがってそのままの状態で採取されています。この跡からいろいろ推定できます。
 例えば、オフィスに重要書類があって、どうも誰かが進入して触った形跡がみられる。 あるいは、その書類のコピーを採られたかもしれない、ということがあります。 このような場合、部屋の中や紙から指紋を検出して、その指紋の形や付き方から、次のような事実を確認することができるのです。

・指紋は見えるのか、見えるとすればどうして見えるのかその理由。
・右手であるか,左手であるか、そのどの部分か。
・どんな姿勢のときについたのか。
・力の入った方向はどっちか。
・指紋がついた圧力はどのくらいか。
・濡れている手か、乾いていたのか。
・血液や異物はついているか。
・指紋の存在が周りの状況と一致するか。

 この事実がわかったら、ここから何を読み取るのか、が大切です。 今、出ている事実や主張している内容にこれらの現象をつき合わせて、果たして本当かどうかを判断するのです。 その目安が「自然さ」です。そんな難しく考えることはなく、おかしくないか、という感覚で見ることです。 過去の事例からしても、真実であるならば必ず自然とつじつまが合うものです。 どこかに「おかしい」という感覚があるのは、何かあると言う気持ちで見ることです。

人の意思がわかる。

 自分の名前の下に、印鑑の変わりに指紋を押捺する場合があります。 いわゆる、「拇印」と言われるものです。専門的には「名下指紋(めいかしもん)」といいます。 しかし、問題となったときには、指紋には名前が書いてありませんから、いったいこの指紋は誰のものか、となります。
例えば,遺言書の指印があるとき、これの真偽が争われる時があります。この場合は、在宅指紋の入手指紋で対処しています。 他人の名前を使って自分の指紋を押印する者もいるのですが、交通違反で捕まったときにみられます。 いわゆる偽名詐称というものですが、これは立派な刑事事件です。事件名としては有印私文書偽造同行使罪です。 これは、犯人の指紋に間違いないから明るみに出ればすぐにわかってしまいます。
 また、これから遺言書を書き残そうと考えている方は、遺言書の署名、押印の他に指紋を押し、 その指紋の担保として自分の指紋原紙も残しておくと、将来、争いになったとき真偽判定の一手段として使うことができます。 そのときは、ご相談ください。
 人は、欲得が絡むと何をするかわからないこともあります。

別人の証明ができる。

 指紋は、犯罪捜査のイメージが強く、合致することに注目されがちであるが、指紋が合わない事も重要な情報として活用できます。 例えば、自分に疑いがかけられた場合、現場や契約書等に残された指紋と、自分の指紋を照合すれば、犯行を犯していないことの証明になります。 このように、むやみに疑われた時に、それを解消するのに役立ちます。

身体的特徴や利き手がわかる。

指紋は、生活上の現象を映し出しています。現場指紋はそのままを伝えてくれます。

 ・指が太いか、細いか。
 ・指にしわがあるか、ないか。
 ・切り傷、曲がりなどの不自然な形はないか。
 ・男性らしいか女性らしいか(顕著なら判断することもあるが、根拠がない)。
 ・似ている指紋はあるか(直系血族では類似紋様が多い。)
 ・指紋が荒れているか(女性、料理人、理美容業など水、油関係従事者に多い)

 これらを頭において指紋を良く観察すると、見えてきます。その形態により職務質問時に手の指を見て、犯人かどうかをその場で簡易判断できることもあり、捜査実務に活用できる場合もあるのです。だから、鑑定する指紋が何指か,どんな紋様形態をしているのか、というのは鑑定作業上とても大切なことなのです。
 また、利き手があればそれを推定することもできます。例えば、紙に文字を書くときは、右利きの人は、左手で紙を押さえますから左側に左手が残ります。左利きの人は、これと逆になります。指紋の位置と方向、左右別によってわかるのです。

人を制御することができる。

 犯人として警察に検挙されると指紋と写真を採取されますが、 これは、次の犯罪を犯すと、すぐにわかってしまうからもうするんではないぞ、という予防の一面も入っているのです。 いわゆる犯罪予防の担保といったところです。
 また、事件関係者から犯人の指紋を絞り込むために、社員や現場出入り者から協力してもらい指紋を提供してもらうことがあります。 これを「協力者指紋」といっていますが、警察には保管されません。用済みの指紋は、返してほしいといえば戻ってきます。 現場では、ほとんどの方が「指紋をとられたら、もう悪いことができない。」というのを耳にすることがありますが、これも一種の脅し効果なのです。 だが、これは決して悪いことではないのです。 何か事件があったら即、警察ですが、起きないように仕向けていくのが本当の予防なのです。